バリに半年住んでいた時の話 プロローグ その4
絶不調で車に乗り込んだ私は、ガンガンに冷房の効いた車内で腹痛に耐えながら後部座席に大人しく座っていた。
車はトヨタのキジャン。
バリではちょっといい車に乗っているな、と思って見るとキジャンだったという事が多かった。
トヨタ、いすず、ヤマハ、ホンダ、見かける車やバイクはとにかく日本製ばかりだった。
当時、バリの人々はバイクがほとんどだったので車があるというだけでも結構なステータスだろう。
「先生、我々はこれからどこへ向かうのでしょう?」
「ここから車で1時間ほど北の山の街へ行くよ。そこに君たちがお世話になる宿を確保してもらってある。」
そう、留学先は決まっていたけど宿は決まっていなかった。
半年前に子供たちの演奏に心を揺さぶられてここまで来た。
今の所腹痛が酷くて外の景色も街の様子も全く頭に入って来ない。
かと言って、先生だけでなく初対面のこの怖そうな顔をした色の黒いおじさんたちに
「トイレに行きたいから下ろしてくれ」
とも言いづらい。
窓から見えるバイパス沿いのヤシの木や青い空で気を紛らわしながら30分ほど乗ったところで限界が来て訴えた。
「どうしてもお腹が痛いのですがトイレに寄っていただくことは出来ないでしょうか」
車で5分ほど進んだ所にあるマクドナルドへ寄ってもらう事になった。
マクドナルドは素晴らしい。
世界中どこにでもあるし、現地の特色あるメニューも採用はされているが基本的にハンバーガーとポテトとコーラは何処にでもある。
間一髪でトイレに駆け込んで、若干回復して車に乗り込んだところで怖い顔をしたおじさんの1人が気を遣ってソフトクリームを食べるか、と聞いてくれた。
優しさに少し感動したが、見せてくれる優しさの種類が日本人とは少し違うようだな、と思った。
その後も車内の冷房はずっと強いままだった。