バリに半年住んでいた時の話 その2

目が覚めて、またワヤンの元へ向かう。

「スラマッパギ」

「スラマッパギ」

まだ簡単な挨拶だけだ。

 

1人だけ早く目が覚めてしまっていたので、少しワヤンの元で粘ってみた。

会話はないが、テレビがついておりインドネシア語が流れている。

早すぎて全く聞き取れない。

 

「スダマンディ?」(沐浴は済ませたかい?)

ワヤンが話しかけて来た。

スダ、は「〜は済んだか?」という口語だ。

食事は済んだ、とか○○へ行ってみたか、とかもうあれを見たか?とか沐浴は済ませたか?

みたいな事がイギリス人にとっての天気の挨拶ばりに出て来るのがバリの世間話のルーティンの一つだ。

 

私は何で朝なのに沐浴なのかな、と思い

「ブルム」(まだだよ)

と答えたら笑われた。

 

後で聞いたところによると、バリ人は綺麗好きでまず朝起きたら身を清め、また夕方帰って来たらそこでも身を清めるのだという。

普通の家庭では当時お湯は出なかったから、水浴びだ。

 

直に友人たちも起きて来て、前日のパンを食べてその日の計画を練った。

ガブリーに会うと、これから彼女のバリ人のお師匠さんが宿に来て、宿の広場スペースで楽器を教えてもらうのだという。

 

私は興味があったので、ガブリーの練習を見学させてもらう事にした。

友人たちも一緒に見ている事になった。

 

やがて現れたガブリーの師匠のバリ人は、ジミヘンみたいなロン毛のおじいちゃんだった。

名前はパ・グスティというそうだ。

 

インドネシアで、目上の男性の名前を呼ぶ時は「Bapak」「Pak」という敬称をつけるのが自然だ。英語でいう「ミスター」みたいな物だと解釈している。

ちなみに、女性は「Ibu」「Bu」とつける。

 

ガブリーとお師匠さんの演奏する楽器は「リンディック」という竹の木琴のようなガムランだった。

 

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rindik


 

 

我々が日本で少しかじって来たガムランは「ゴン・クビャール」というモダンなタイプの青銅を使ったガッツリとした大編成の重たい楽器で、ガブリーたちがやっているリンディックは持ち運びも簡単に出来そうな可愛い音色の竹ガムランだった。

 

ゴン・クビャールの楽器の音板は叩いたら逆の手でミュートして回らないと音が濁って仕方がないが、このリンディックは竹なので音板を叩いても音が伸びない分、両手にバチを持って叩く事が可能なようだった。

 

バリのビーチリゾートにあるホテルで現地の人が叩いているのは、このリンディックである事が多いように思う。2人でもハーモニーが作れて、ロビーのような響く環境であっても耳障りがよく優しい、それでいて異国情緒のある音で丁度良いのだと思う。

 

曲名は聞かなかったが、恐らく「ジョゲ」というものだったと思う。

ガブリーのレッスンだったから飛び入り参加はしてはいけないと心得ていたので、本当に大人しく、距離をとって見学をしていたがとてもウズウズした。

 

2時間ほど練習をした後に、ガブリーとパッ・グスティは明日も10時頃に練習を始めると言って、2人でランチへ出かけて行った。

 

ガブリーはどうやってお師匠さんを見つけたのだろう?

我々も現地の音楽や舞踊を教わりに来たのに、一体どうしたら良いのだろうか?

どうしたら良いか分からないままに気持ちだけが焦るのだった。